今回の総長選は、総長選考会議が2014年11月に五神真現総長が次期総長予定者として選出して以来6年ぶりとなる。本記事では平成年間を対象に、過去の第2次総長候補の氏名、属性や意向投票の結果、過去の総長が在任中に実施した施策についてまとめた。

2004年の国立大学法人化後、総長選における第2次総長候補者への意向投票の位置付けは徐々に変わってきているものの(詳細についてはこちら)、平成年間に実施した全ての総長選において、意向投票で1位を獲得した候補者が総長に就任している。

少なくとも2014年までは、第2次総長候補を対象とした意向投票は、1人が過半数に達するまで繰り返されることになっていた。3回目の投票までに誰も過半数に達しなかった場合、3回目の投票で得票数が多かった2人の候補による決選投票が実施される。今回の東京大学総長選考会議内規では、第10条の2において、意向投票の方法については別に定めるとされており、具体的な方法は公開されていない。

(所属、肩書きは全て当時のもの)

 

1989年4月〜 第24代
有馬朗人教授(理学部) 猪瀬博東大名誉教授 宇沢弘文教授(経済学部) 本間長世教授(教養学部)松尾浩也教授(法学部)

3回目の投票までに誰も過半数に達しなかったため、3回目の投票で得票数が多かった有馬教授と本間教授の決選投票に。共に586票を獲得したため、くじ引きをしたところ、有馬教授が選出された。

総長選で主な争点となったのは、森亘第23代総長の下で進行していた「大学院重点化構想」。修士課程や博士課程の学生を増やしたり、大学院所属の教員を増やしたりすることで、研究力上昇を図るものだった。総長特別補佐として構想を推進していた有馬教授に対し、構想の実現により解体の危険があった教養学部の本間教授が対抗する形となった。

 

1993年4月〜 第25代
吉川弘之教授(工学部) 石井紫郎教授(法学部) 伊理正夫教授(工学部) 柴田翔教授(文学部) 本間長世東大名誉教授

3回目の投票で過半数を占めた吉川教授が選出された。森第23代総長(医学部出身)、有馬第24代総長に続き、3代連続で理科系部局出身の総長となった。

吉川教授は、有馬第25代総長と同様、総長特別補佐として学内行政で重要な位置を占めていた。柏キャンパスの研究拠点化を総長特別補佐時代から進め、総長就任後も学内での調整を担った。

 

1997年4月〜 第26代
蓮實重彦教授(総合文化研究科) 石井紫郎東大名誉教授 鈴木昭憲教授(農学生命科学研究科) 西尾勝教授(法学政治学研究科) 矢崎義雄教授(医学部)

3回目の投票までに誰も過半数に達しなかったため、3回目で得票数が多かった蓮實教授と鈴木教授の決選投票となった。蓮實教授、鈴木教授は当時共に副学長を務めていた。決選投票では蓮實教授が過半数を占めた。

蓮實総長の在任中には、吉川前総長の任期に引き続き、柏キャンパスの研究拠点化が進んだ。駒場寮の明け渡しに関する裁判も起こった。

 

2001年4月〜 第27代
佐々木毅教授(法学政治学研究科) 青山善光教授(法学政治学研究科) 石井紫郎東大名誉教授 小林俊一東大名誉教授 廣渡清吾教授(社会科学研究所)

理学系研究科長を務めた経験がある小林名誉教授を除く4人が文科系部局の出身で、4人のうち佐々木教授、青山教授、石井名誉教授の3人は法学部長経験者だった。投票を重ねるごとに青山、石井両候補への票が佐々木教授に集まったことで、3回目の投票で佐々木教授が過半数を獲得。総長特別補佐や副学長を務めたことがない人が総長になるのは、当時異例だった。

佐々木総長の在任中の2004年4月には、大学と社会の連携強化や教育研究の発展を目指し国立大学が法人化された。法人化に伴い、大学が中期目標・計画を6年単位で設定することになったことや、総長の権限を強める狙いから、第29代総長以降の任期を4年から6年に延長することになった。

 

2005年4月〜 第28代
小宮山宏教授(工学系研究科) 佐々木毅第28代総長 西尾茂文教授(生産技術研究所)

法人化後初の総長選では、佐々木第28代総長が再選を目指した。しかし、2回にわたる投票の結果、副学長を務めていた小宮山教授が過半数を占めた。

小宮山総長は就任の際「自律分散協調系」と「知の構造化」をキーワードに任期中の活動方針を示す「アクションプラン」を公表し、毎年更新した。情報学環福武ホールや現「21 KOMCEE」(駒場Ⅰキャンパス)の建設を進めた他、総長としての書籍出版など積極的な社会発信に力を入れた。

 

2009年4月〜 第29代
濱田純一教授(情報学環)岡村定矩教授(理学系研究科) 廣川信隆教授(医学系研究科) 廣渡清吾教授(社会科学研究所) 古田元夫教授(総合文化研究科) 前田正史教授(生産技術研究所)

3回目の投票までに誰も過半数に達しなかったため、3回目の得票数が多かった濱田教授と岡村教授の決選投票となった。両者は共に理事・副学長を務めていた。決選投票では濱田教授が過半数を占めた。

濱田総長は在任中、国際化を目指した施策を数多く実行。2011年には全学的な秋入学への移行を目指していることが明らかになり、移行に向けた議論が学内外で活発になったが、最終的には学内からの多くの懸念を受け断念した。他、日本語と英語に加え、もう一つの外国語の運用能力を集中的に鍛える「トライリンガル・プログラム(TLP)」の導入など、前期教養課程における改革も始まった。

 

2015年4月〜 第30代
五神真教授(理学系研究科) 江川雅子理事 長谷川壽一教授(総合文化研究科) 宮薗浩平教授(医学系研究科) 大和裕幸教授(新領域創成科学研究科)

3回目の投票までに誰も過半数に達しなかったため、3回目の得票数が多かった五神教授と宮薗教授の決選投票となった。決選投票では五神教授が894票、宮園教授が705票を獲得し、五神教授が過半数を占めた。

五神総長は2015年10月に任期中の行動指針「東京大学ビジョン2020」を公表し、施策に取り組んできた。任期中の主な施策としては、2017年度から始まった女子学生への家賃補助が挙げられる。現在は、国立大学としては初めてとなる、大学が発行する債券「大学債」の発行準備を進めており、国からの資金に頼らない経営体制づくりを進めている。